揺らめく炎の癒し
美術館や公園に配された水の、揺らめく模様に目を奪われたことはありませんか。あるいは午後、少しずつ姿を変えてゆく木漏れ日を、気がついたらじっと見つめていた、なんてことは?
私たちは、たゆたうものに心惹かれる生き物です。川の水や陽の光と同じように、ちらちらと揺れる炎もまた、日常の中に静かな時間を運んでくれます。
この、「火に癒される」という感覚はなんだかちょっと不思議です。
私たちのはるか祖先、原子の生物たちがみんな海中から誕生したことに思いを馳せれば、水を見たり湯につかったりするときにホッとする、なんて感覚は、体レベルで飲み込めます。日陰に入ると安堵するのも、直射日光の激しさを考えれば理解できますよね。
だけど火はどうでしょう。
火は文明の象徴だけれど、火事の恐怖とも表裏一体です。なんだかちょっと怖い感じがしませんか。
でも、暖炉の火やアロマキャンドルの炎を見て、心をゆるめた記憶が、私たちには、確かに、ある。
なぜ我々は、火という存在にこんなにも癒されるのでしょう。
求められる五感の空間
キーワードは「体験」です。
瞬時に情報がシェアされ、拡散される現代において、「ひと目でわかる」ということはとても大切にされています。パッと見て魅力的なヴィジュアルのフードやファッションはすぐさま理解され、数秒のうちに「いいね」と評価されてゆく。
だからこそ、肉体ごとの経験がおこなわれる空間においては、すぐに全てを「いいね」と言い切れないだけの奥行きが決め手となるのです。
せせらぎの音や水面の輝き、ゆらゆら揺れる波の影。目も耳も肌も、そして時間の流れまでをも取り込んだ、水という体験。体が感動して、心が揺れるのですね。
火もまた然りです。パチパチと燃える暖炉の炎、ゆっくり温まってゆく肌の喜び。音源データや画像のみでは再現が難しいホリスティックな体験が、立体的な感動をもたらします。
炎は贅沢か
最近、薪ストーブが流行しています。
「グラマラス・キャンプ」を意味する「グランピング」のブームもあり、屋外で使える薪ストーブが人気です。
とうもろこしやサトウキビなど、植物由来の資源から作られたアルコールを使用する、バイオエタノールの暖炉も、多くみられるようになりました。
薪ストーブがあらわれた当初は、高級住宅からの注文がメインでしたが、今ではマンション共用部や店舗に置くための注文も増えているようです。据え置きタイプは工事が不要だから気軽に取り入れられるのも、人気の理由かもしれません。
薪や燃料を用意するのは、手間のようにも思えますが、いざ始めてみると楽しいものです。植物に水をやるとき、慌ただしい日常からふっと切り離されることがあるように、ストーブにくべるための薪を集める時間もまた、静かな喜びが寄り添います。
川のほとりには動物たちが集まるものですが、薪ストーブのある場所には、人が集まります。家族や友人が顔を寄せ合う暖かな空間を、はじめてみませんか。
著:岡田麻沙