人生100年時代。賃貸で暮らすか、それとも持ち家か?
揺りかごから墓場まで、なんていう言葉がありますが、人に一生ついて回るのが「住まい」の問題です。
これから先の人生、どこに住みたいのか、どう暮らしたいのか。
都会の高層マンション、郊外の邸宅、海辺のテラスハウス、大草原の小さな家……。
人それぞれ、思い描く理想の住まいはさまざまですよね。
住環境、たとえば景色や治安、交通の便など住まいのロケーションは大切ですが、
もうひとつの切り口は「住まいを購入するのがいいのか、それとも賃貸がいいのか」ということです。
「一生家賃を払い続けるよりも、頑張って買う方が絶対にいいよ」
「いや、生涯で払うトータルは賃貸の方が安いし」
「賃貸は最後に何も残らないけど、買えば財産が残るよ」
「別に財産を遺す人も居ないし、最近では「負動産」なんて言葉もあるし」
持ち家派と賃貸派の言い分は、たぶんどちらも間違っていません。
たとえば今から30年ほども前、不動産の価値が上がることはあっても下がるなんて考えられなかった頃は、
持ち家派の言い分が優勢でした。
経済が成長し、人口も増え、さらに核家族化で世帯数はそれに増して増えていて、そして人々がより広くて
快適な住まいを求めていた時代ですね。
しかしいま、日本は人口が減っていく局面にさしかかりました。
一部の都心でこそマンションは売れているようですが、それ以外では物件をどんどん建ててなかなか
売れない、仕方なく値引き販売する、なんていうこともよく耳にします。
賃貸の方が安心?
日々の生活で家賃を払うのか、住宅ローンを払うのか。
分譲マンションの折り込みチラシなどでよく「月々の支払額○万円!今の家賃と比べてみてください!」
なんて書かれていたりしますね。
同じ広さの賃貸よりもかなり割安に感じることもあるでしょう。
ただし、たとえば頭金が必要だったり、ボーナス月加算が大きかったり、ステップ返済で何年か後に
支払額が大きくなる計算だったり、定期借地権で別途地代が必要だったり、さらには共益費や修繕積立金、
固定資産税なども含めて月割りで考えないと、本当に安いかどうか判断できません。
阪神大震災の時、筆者は兵庫県西宮市のUR賃貸に住んでいました。
幸い建物の大きな損壊はなく、人的な被害もありませんでした。
しかし、敷地内は地盤の液状化が起こり、建物の基礎との間で段差が出来たりしました。
それらすべての補修はURがしてくれました。
同じ団地内には分譲棟もありましたが、そちらは各戸が負担する修繕積立金から支出したようです。
それでも、建物の損壊がなかったので幸いだったと言えるでしょう。
同じ市内の分譲マンションで全壊や半壊の判定を受けたところでは、その後の補修や建て替えに際して住民間の足並みがそろわず、復旧に恐ろしく時間がかかったところもあると聞きます。
こういうことがあると、やはり賃貸の方が安心だという意見は説得力があります。
賃貸にもやはり、不安はある
ただ一方で、民間の賃貸住宅はこの先自分は借りられなくなるのではないかと、
将来に不安を抱える人も居ます。
一時、生涯独身で過ごすことになりそうだと考える女性が、若くして自宅を購入するという事が話題に
なりました。
ある程度以上の年齢の女性の単身世帯は、なかなか部屋を貸してくれないから、という不安からです。
考えてみるとこれは男性でも女性でも事情は同じなのですが、単身世帯は孤独死のリスクを考えると
貸したくない、ということがあるのでしょう。
所有する部屋が事故物件になるのはなんとしても避けたいところでしょうからね。
また、民間の賃貸は大家さんが個人で管理・経営しているところも多く、たとえば大家さんが高齢化して
管理が行き届かなくなったり、代替わりして賃貸住宅の経営から手を引くということで立ち退きを
迫られたり、そういう貸し主側の個人的な事情に左右されることも無いとは言えません。
「終の棲家」の安心を買う?
持ち家ならば、そんな不安はありません。
住宅ローンを支払っているにしても、あくまで自分自身が土地と建物の権利を持っているわけですから。
暮らしやすいようにリフォームするのも自由です。
ただしマンションなどの集合住宅では、共用部分は勝手に改装できないですけどね。
一戸建てであれば、ログハウス風にしたい、ガレージハウスにしたいなど、外装も含めてほとんど
思いのままです。
そして当然のことながら住宅ローン完済後、持ち家は文字通り自分の持ち物、財産になります。
もしも子供が居た場合には、遺してあげることもできます。
何より「終の棲家」というものがある、という安心感は他に代えがたいものかもしれません。
ライフスタイルに合えば、どちらも正解
持ち家と賃貸、人生100年時代を安心して過ごせるのは。
これはどちらが正しいかという答えの出る問題ではありません。
両方ある意味正解で、ある意味不正解でしょう。
地方では過疎化が進んで空き家の問題が深刻になり、都心部ではタワーマンションがどんどん建てられている
ものの、この先確実に訪れる大規模修繕が同時期に集中し、対応できるゼネコンが不足するだろうという
予測もあります。
又聞きですが、ある裕福なヨーロッパ人の言葉を思い出します。
「いろいろあったけど、最後には地中海の見えるこのテラスがあれば幸せだ」。
そういうものなのかもしれません。
元気に過ごす老後が長くなるだろうこれからの時代、ライフスタイルの多様化に伴って、
住まい方にも新しい視点が必要なのかも知れません。
しっかりとアンテナを張って、自分自身が快適に過ごせる住まいをしっかりと見つけていきたいものです。
著:おじま あきら