中古マンションという言葉を聞くと、どんなイメージを持つでしょうか? 
これからの「古マン」は、現在の「古民家」と同じように、デザイン的に開かれた存在として認識されていくようになるでしょう。
街なかを歩いていて、古民家カフェや古民家ギャラリーを目にするのは、そう珍しいことではなくなりました。「古民家」という言葉は私たち日本人の耳に心地よく馴染み、趣のある空間をイメージさせてくれます。はっきりとした定義は定かではありませんが、おおむね戦前の伝統的な工法によって建てられた家屋のことを古民家と呼びます。太い丸太梁やむき出しの小屋組み、土壁に板戸……。昔ながらの趣がある誂えを、若い人々はかえって新鮮に感じるようです。「民家」というとありふれたイメージなのに、「古」の一文字を加えるだけで、味わい深くなるから不思議ですよね。

カタにはまると流行るのが日本

古民家カフェや古民家バー、古民家ブティック。
こうした存在は、カフェやバーが本来持っているイメージからするとちぐはぐな組み合わせのはずなのですが、古民家という建物が、器として懐が深く、受け入れてくれるのです。古民家はもともと良質な伝統家屋なので、最低限のリノベーションでも効果的に再生することができます。シックな雰囲気や奥行きを残したまま、ハイブリッドな空間が完成します。
こうした、時間を経て残ってきたものが持つ確立されたスタイルを模倣することで、面白い空間を作り出すこともできます。いまや、“古民家”道の駅や“古民家”美観地区などといった、新しい建築物をわざわざ古民家風に仕上げた施設まで存在するのですから。

意外と歴史が浅い古マンション

実は、中古マンションの歴史は50年ほどしかありません。
昭和初期、日本中にあった民家の多くが集合住宅に取って代わる流れが生じ、その後、マンションという存在が本格的に普及しだしたのは昭和40年代でした。古民家と違って歴史の浅い古マンションは、確立された工法やスタイルがあまりなく、個々のつくりや性能が価値を左右します。それだけに、間取りや外観が画一的でなく個性的なものが多いため、探し始めると奥が深いジャンルです。 しかし、現時点では、ほとんどの建物が原状回復や機能を維持するための改修工事しか行われていない状況です。

古マンの魅力に気づいた人たち

古マンションの面白さに目を着けた人々の間で、静かなブームが始まっています。長い間、中古マンションは積極的に借りたい物件ではありませんでした。東京の青山や大阪の堀江などの一等地エリアでは、見るからに古い普通のマンションが、平然と高い家賃で貸し出されていますが、そういった地域以外の古いマンションは、手をこまねいて入居者を待っているような状態でした。
しかし、こうしたトレンドに少しずつ変化が訪れています。ただの古いマンションでも個性を磨けば味わい深いオリジナルの住まいになることに気付いたオーナーと、そういった住まいを求める人たちが増えてきているのです。
古マンションは、それ自体の歴史が浅くスタイルが統一されていないため、古民家や町屋と違い、個性のふり幅が大きいのです。古びたレンガタイル貼りのマンションを洒落た倉庫風にリノベーションするマンションのオーナーや、木造アパートを数寄屋旅館風に生まれ変わらせるオーナーもいます。自由度の高い古マンのリノベーションは、その町ごとにスタイルが異なるので、どこまでも「好き」を追求することができるのです。
こうした古マンションのリノベーション手法が広がりはじめ、わざわざ築40年以上の建物を買い付ける投資家も少なくありません。

古マンリノベの魅力

古民家や町屋スタイルの施設は今ではすっかり人々の暮らしに根付き、見慣れたものとなりましたが、今後も一定の人気を維持するでしょう。古マンションもこれから、こうした道を辿ります。限りないデザイン自由度の中で、古マンションへの期待とニーズが膨らんでいくことは間違いありません。
歴史の深さこそ違いますが、古民家も古マンションも、懐の深さは同じです。古マンションは、正しいメンテナンスをなされ、良質なデザインを施されてこそ本来の魅力を発揮するのです。

著:岡田麻沙