現代日本で巻き起こるレトロブーム

平成になって30年、21世紀に入って18年目、そんな昨今、昭和文化が再び注目を集めています。
ウルトラマンや仮面ライダーのイベントや映画などがいくつも開催され、アナログレコードの人気も再燃、人気アーティストが続々とアナログレコードで新譜や復刻アルバムを発売するという事態が起きています。昨年11月に任天堂から復刻販売されたミニファミコンが、予約殺到ですぐさま入手困難になったのも記憶に新しいことでしょう。
 
ブームはサブカルチャーに留まりません。インスタグラマーのあいだで活用されたことをきっかけに、使い捨てカメラ「写ルンです」の販売数が増加。昭和のコミュニティの一つだった銭湯にも、訪れる女性客が増えてきているということです。
 
アートシーンではさらにさかのぼった「懐古」も起きています。
2016年に東京都美術館で開催された「若冲展」(伊藤若冲:江戸時代中期の日本画家)は、海外の印象派の人気が高い日本において異例の注目を集め、約1ヶ月の開催期間で44万6000人を超える来場者数を叩き出しました。期間中にはなんと入場待ち5時間超という日もあったということです。
また、2017年の美術館・博物館の大型企画展では、日本の国宝が一堂に会した京都国立博物館の「国宝展」、東京国立博物館の「運慶展」(運慶:平安時代末期から鎌倉時代初期に活動した仏師)がそれぞれ来場者数の上位を占めました。
 
過ぎ去った昭和時代の文化懐古に、現代日本へのジャポニスムの襲来ともいえるアートシーンの動き。
今日本では時代の大きな変化とも思えるような「レトロブーム」が巻き起こっています。

レトロ文化が現代人を惹きつける理由

高度成長期を知り、ウルトラマンや仮面ライダーに夢中になった世代、ファミコンを徹夜でプレイした世代、使い捨てカメラで初めて気軽に思い出を記録した世代、昭和カルチャーはそんな昭和生まれの人々に懐かしさが受けている……のかと思いきや、実際のところそれだけの理由でブームが起きているわけではない様子。
 
現像してみなければどんなふうに写っているのかわからない使い捨てカメラや、音や響きがクリアでなくても味のある音質が楽しめるアナログレコード。
物心ついたころから携帯電話やスマートフォンが必須アイテムであり娯楽でもあった世代には、不便さや不完全さが新鮮な魅力となって興味を惹き付けているのです。
 
現代日本からは遠い時代のアートを楽しむ人々が増えたのも、かつて海外の人々が開国後の日本から溢れだしたジャポニスムに驚きと興味を覚えたように、久しく身近に無かった文化に新鮮な刺激を感じているからなのかもしれません。

建築におけるレトロブーム

建築に関するところでも、レトロブームは起きています。
 
かつての外国人居留地に残る洋館や大正・昭和初期に建てられた洋風建築などは、元々外国文化を好意的に取り入れてきた日本では憧れの存在でした。歴史を感じる近代建築を巡るツアーもあちこちで開催されており、入館開放された建物はブームに関係なく一定の人気を誇ってきました。
 
しかし近年の建築や住宅におけるレトロブームは、洋館建築に留まりません。
「古民家カフェ」は飲食店のいちジャンルとして高い人気を獲得していますし、あえて古い日本住宅の雰囲気を好み、リノベーションして再利用する人もいます。
昭和中期に大量に建てられた平屋のリノベーションも、ここ数年の流行といって良いでしょう。
 
「夢は新築マイホーム」という感覚を持たない人も多くなり、住宅関係の雑誌などでは、新築と中古住宅購入、リノベーションの費用比較が行われています。
築年数の経過したマンションのリノベーションは、マイホームを求める人にとって当たり前の選択肢となってきているのです。

リノベーションが実現するレトロ建築の革新

解体で露わになったRCの梁をそのまま意匠に取り入れる方向で検討。

梁の古さを見せつつ、レトロな雰囲気のオフィス空間に仕上げる。

建築は、変化・発展を遂げながらも、今もなお活用され続けているリアリズムが最大の魅力です。
丈夫な土台に柱や梁がある古民家、たっぷり土地が確保された平屋、そうした実用性も重宝されているのは間違いありませんが、しかし「あえて」「好んで」活用され続ける理由はそれだけではないでしょう。
 
古民家は古さや不格好さ、経年により現れた粗さから、「素朴さ」という新たな魅力を醸し出します。
平屋のフラットな作りは、部屋同士の空間に繋がりをもたせたり天井を高くとったり、現代的な住宅では難しい、圧迫感のない開放的な住まいの実現を助けてくれます。
何の変哲もなく味気ない昭和らしいデザインのマンションが、古いパーツを活かしつつ新風を吹き込んだリノベーションで個性的に生まれ変わる様には、衝撃とともに爽快感さえ感じられるものです。
 
レトロ物件を活用するリノベーションは、懐古趣味と冒険心を満たして、住宅に新鮮な変化を起こしてくれます。
レトロ文化の新しい楽しみを模索する現代日本人のための最先端の文化活動、それがリノベーションなのかもしれません。
 
著:猫野千秋