マンション館銘板について考えてみる

ちょっと面白いマンションポエムの世界

マンションポエム、という言葉をご存じでしょうか。

 新しいマンションができた場合など、チラシや広告、看板などに書かれている、あの「緑薫る清流に暮らす」とか「めくるめくアーバンライフ」とか「港町おいら渡り鳥」(ってそれはジュリーの歌ですね)といった、そういうキャッチコピーのことですね。
「駅から○○分」とか「専有面積○○平米」みたいな具体的な宣伝文句ではなくて、あくまでも抽象的なイメージで迫ってくる、あれです。

 もうずっと前ですが、筆者の暮らす浜甲子園地区に建ったマンションで
「南フランスに暮らす贅沢」というようなマンションポエムを見たことがあります。
甲子園浜と南フランス……。
いや、いいんですけどね。
瀬戸内海もコート・ダ・ジュールも、海は全部繋がってますからね。
でもなあ……。

 ほんと、言うたもん勝ちというかなんというか、恥ずかしがった方が負けの世界ですね。

 面白いのは、その物件が完売してしまうとほとんどのマンションポエムは速やかに抹消される、
ということです。
浜甲子園の「南フランス」も、いまその物件の名前でいろいろ検索してみましたが、
もうどこにもそのフレーズは出てきません。

おそらく速やかに忘れて欲しい「黒歴史」というようなものなのでしょう。
もしその物件に心があったとしたら「ああそこほじくらんとってー」っていうような、
蒸し返されたくない過去というか。

物件のイメージについて

マンションや集合住宅にとって大切なのは、もちろん建物の丈夫さや耐火性、
快適に暮らすための設備や住居としての基本性能がまず第一で、
それに築年数、広さ、デザイン、眺望、立地条件などの生活する上での利便性、
といった様々な要素が加味されて、物件としての値打ちが決まりますよね。

そしてそれらと価格、家賃などの費用との兼ね合いで、その物件の魅力、
それを買いたいかそこに住みたいか、というようなことになるわけです。

 しかしまた、マンションや集合住宅などはそういう実質的なことだけでなく、
きっとイメージも大切なんですよね。
 新しい物件を売り出すときには、とにかく盛りに盛ったマンションポエムとかイメージ写真とか、
たとえ建物そのものの説明からちょっと離れてでも「なんとなくいいなあ」と感じさせる戦略みたいなのも、また必要なんでしょう。

素敵な名前を付けたい

物件の名前も大事です。
できるだけお洒落で高級そうな名前を付けたいところです。
もちろん、ある程度その物件のイメージに沿った名前でなければなりません。
例えばウォーターフロントの新築高級タワーマンションなのに名前が「トキワ荘」だったら、
絶対に「なんで?」ってなりますよね。
反対に全六室の鉄骨造り外階段の二階建てアパートに「グランドレジデンスタワー」なんていう名前を
付けたら、それはもうギャグでしかありませんよね。
いや、あえてそれを狙ってみるのも面白いかも知れないですけど、めっちゃリスキーですし。

 それと「なんとなくかっこいいんだけど意味のよくわからない名前」というのも考え物です。
筆者の知り合いが昔住んでいたマンションの名前に「グレート・フューチャー」というのがありました。
何でしょう。偉大な未来?
ここに住む皆さんにはグレイトな未来が待ち受けているぜ、って感じでしょうか。


 外国の人で、なんとなくかっこいいからという理由で漢字のタトゥ(入れ墨)を入れることが良くある
らしいです。
中には「その字の形がイカしてる、クールだ」って、まったく意味を知らずに入れてしまったりする場合もあるようで、肩のところに「台所」なんて入れてる人が居るのだとか。

 また、台湾は親日の国と言われていますが、日本へのリスペクトを込めて、建物に日本の有名人の名前を
付けたりするそうです。
ビルの壁にいきなり「小室哲哉」とか「夏目漱石」とか、そういう銘板がはまっていて、
日本人観光客が驚くのだとか。

 なんとなくかっこいい英語の名前を付けてるけど、欧米人が見ると「?」なものって結構ありそうな気がします。

館銘板にこだわってみたい

やはりその物件の特徴や魅力が伝わりやすいような、素敵な名前というのは大切です。
そしてその名前を伝える館銘板もまた、建物にとって重要な要素です。

 館銘板にはデザインや素材など、いろいろな形態があります。
素材で一般的なのは壁などに金属製の銘板を埋め込んだものですが、文字だけを浮き上がらせたもの、
壁に直接刻まれたもの、ガラスやアクリルなど透明な素材を使ったもの、
壁面に大きくペイントされたものなど、本当に様々です。

 またデザインでは四角あり、丸あり、三角あり、書かれている文字も漢字あり、カタカナあり、英語あり、書体もゴシックあり、明朝体あり、筆記体あり、ほんとバラエティに富んでいます。

 お洒落で、あるいは高級感に溢れていて、人目を引くもの。魅力的に見えるもの。
 そして、耐久性のあるもの。これはかなり大事です。

 館銘板が欠けていたり錆びていたりで見窄らしい状態になっていると、
その建物もまたきちんと手入れがされていない、メンテナンスが行き届いていないという印象を
持たれてしまいます。

 建物の顔はエントランスと言われますが、それでいうと館銘板はある意味、
建物の名刺みたいなものでしょうか。
笑顔と共に差し出される名刺はやはり、美しくセンスの感じられるものがいいですよね。

著:おじま あきら