わりと定義があいまいな和モダン

「あこがれの和モダンテイストで新築を」
こんなコピーを目にすることがあります。どこかハイブリットな印象のある「和モダン」という言葉ですが、実は、わりと定義があいまいなまま用いられているのです。「モダン」は「今風の」や「近代の」といった意味を持ちますが、一体それがいつからいつまでなのか、明確な答えはありません。ましてや「和」となれば、何をもって和の建築とするのか、解釈の幅にはきりがありません。
「和モダン」と呼ばれる建築の実例を見ると、標準的な住宅に和風の味付けを加えたものが多く見られます。そして、地方都市で見られるような伝統建築から、京都の茶室に見る数寄屋建築まで「和」のテイストには様々なバリエーションがあるようです。

数寄屋、洋館、振り方で結果大違い

一般的に「和モダン」と呼ばれるものは和風様式とモダン様式を折衷したもの、あるいは、和風様式と欧米様式との折衷様式とされています。デザインの振り幅が“和”に大きく傾くと数寄屋建築と似たものに仕上がり、“洋”に大きく振れると洋館建築に見えるものが登場します。そういった意味で“モダン”な雰囲気にデザインの軸を振ってしまえば、「和モダン」らしいものが出来上がる……と考えることもできます。
ところが、この「モダン」という形容詞は建築技術の質を保証する言葉ではありません。数寄屋建築などは、百年の歴史を持つ技術によって作られますから、「数寄屋」という言葉そのものが、その建築物がある一定のレベルを満たしていることを示しています。しかし「モダン」という言葉はあまりに幅広いため、意匠の知識や施工の技量をそれほど必要としなくても、「モダンです」と言うことが許されてしまうのです。

さらりと上手な外資系ホテル

それでは、「和モダン」の成功例はどのようなものなのでしょうか?
日本古来の建築技術による趣を感じさせつつ、今風に洗練されているものを上手な「和モダン」と考えてみましょう。さらりと上手に仕上げている例は、外資系ホテルに多くあります。アマン東京や、ザ・リッツカールトン京都など、和の建築が持つミニマルな雰囲気を生かして違和感なくまとまっています。
西洋という「外部」のフィルターで濾された視点から眺める「和モダン」の意匠は、日本の建築技術を「異なるもの」として見ているからこその丁寧さがあります。見慣れたものが新鮮な視点から切りとられていて、訪れてみればきっと、興味深い発見があるはずです。

日本人のこだわりを

身近な「和」に視点を戻してみましょう。
外資系ホテルのような洗練の形ではなくとも、ひとつでも和のこだわり素材があればそれだけで満足度が高いものを手に入れることもできます。例えば、壁の素材に注目してみるのも一つの選択です。同じような白壁であっても、一般的な壁紙ではなく、漆喰や珪藻土が左官されていれば、印象が大きく変わります。和室であれば、クッション材の入ったスタイロの畳ではなく、昔ながらの本畳が敷かれている部屋のほうがイ草の香りが深くなります。いつもと違った時間が過ごせそうですよね。
壁紙や畳など、大掛かりな素材でなくとも、ちょっとした工夫で「和モダン」を楽しむこともできます。床の間がない部屋でも、軸掛けと掛け軸を用意して飾れば、特徴的なシルエットによって部屋の雰囲気に遊びが生まれます。
すっきりとした空間で無駄のない暮らしを送るのも良いものですが、少しの揺らぎを楽しむならば、「和モダン」という視点を取り入れてみてはどうでしょうか。畳や障子、漆喰、掛け軸……。味わい深い素材を、日本の建築は沢山持っています。何を選ぶか探すうちに、知らなかった日本に出会いなおすことがあるかもしれません。

著:岡田麻沙