部屋とアートが出会う時、空間が捻じれる

空間デザインという観点から、「アートのある生活」について考えてみましょう。
「デザイン」と「アート」は、隣接する関係のように見えますが、互いを喰い合う存在でもあります。目的への最適解に至る思考を視覚化したものがデザインであるとすれば、「アート」と呼ばれるもののいくつかは――それがクラシックなものであれコンテンポラリーなものであれ――目的そのものや、解に至るまでの思考それ自体を疑う視座をはらんでいます。
それならば、部屋に1枚の絵を飾る、一葉のポストカードを貼りつけるという行為は、自分だけのお気に入りの空間をつくる建設的な作業であると同時に、閉じられた枠組みを内部から切り拓いていく破壊的な行為でもあるはずです。あるいは、閉じられた空間をより深く閉じる行為であることも。いずれにせよ、何の気なしに配した、たった一つの作品によって、空間の重力は大きく捻じれることがあります。
見知ったはずの部屋が、思わぬ変容を遂げる。こうしたドラマチックな作用が、デザインとアートが出会う面白さだと言えるでしょう。アートのある生活は、出会いのある生活なのです。

家具を配するように絵画を飾る

部屋に飾られた絵は、窓や鏡と似ています。
玄関のちょっとしたスペースに、姿見ではなく小さな彫刻を配すれば、いつもと違った立ち方をしている自分の体に出会うでしょう。窓のない壁に絵を掛けてみれば、遠くの山を眺めるように、壁の向こう側に投げかけられた自分の視線に気付くはずです。
家具を配するとき、私たちは、視線や体の動きを勘案しながら位置を決めていきます。空間をデザインすることは、生活をデザインすることだからです。全く同じように、「アート」作品を置く場所も、目や体の動きとの調和・不調和を意識して決定することができます。配された作品と住人との関係は日々変化し、デザインされた生活をはみ出して、面白いリズムを生むでしょう。

まずは1枚、買ってみる

 お小遣いをすこし貯めて1万円の小作品を買ってみる。それだけで、部屋とあなたとの関係は大きく変わります。
デザイン的な小作品を探す場合は、表参道のSpiralや、裏原宿にあるDESIGN FESTA GALLERY、外苑前のMoMA DESIGN STOREなどに立ち寄ってみるのもおすすめです。ギャラリーと店舗の中間にある施設なので、鑑賞と買い物、いずれの視点からも楽しむことができますよ。
より個人的な作品を探したい場合、はじめはリトグラフから手を出してみるのも一つの方法です。何を飾りたいのかが決まっていない場合は、小さなギャラリーを訪れる習慣を付けて、じっくり出会いを待つのもいいでしょう。運命的な邂逅を果たした作品が、とても手に入る値段ではなかった……なんてこともあるかもしれませんね。けれど、アートのある生活は、必ずしも、アート作品がある部屋のことだけを意味するわけではありません。会いに行く作品がある生活、なんていうのも、わくわくするではありませんか。

著:岡田麻沙