ハリウッド・ドラマの家に住みたい

昔観たアメリカのドラマに出てくる家は、何もかも見慣れた日本の家とは違っていた。
 
石畳がお洒落な外構に、椅子を置いて寛げる玄関ポーチ。芝生の庭とプールは本当に羨ましくて、家と並んで建つ大きなガレージにはアメリカらしいスケールの大きさが感じられた。
 
リビングには憧れの暖炉!凝った装飾が目を惹くこのインテリアは「マントルピース」というらしい。三人くらいは余裕で座れるアメリカンサイズのゆったりカウチも、リビングの必須アイテムだ。
そして壁紙となって空間を包むのは、見ているだけで幸せになるようなオレンジ色やパステルブルー。
 
幅広い階段を上がって向かう2階には、子ども部屋の数だけ特別な世界が創られていた。格子窓は子どもたちの夜の玄関口だ。窓からこっそり抜け出して、屋根伝いに芝生に降りたり窓の外の木の枝に飛び移ったり。
 
週末にパーティーを開けば、素敵な家に友人たちが30人ほども押しかける。
そう、こんな家なら友達だってきっと居心地が良いはずだ。
 
でも実際のところ、ドラマでなければこういう家にはどんな人が住んでいるんだろう?
 
アメリカの家の平均的な広さは約160㎡。最近ではもっと広い、240㎡というデータもあるとか。
一方日本の家の平均は90㎡を超えるくらい。2倍近くも違っていては、アメリカドラマみたいな生活は当然ながら難しい。

自分流のこだわりで

それじゃあ、日本人の描く理想の家は?理想の生活は?
考えてみてもピンとこない。
 
どっしりした門構えに四季の趣を感じる庭、簡素だけれど機能的で、温もりもある木造平屋建て。そんな日本古来の住宅は、現代日本人には意外に馴染みが薄い。
団地やマンションができて40年以上、ある意味日本のスタンダード住宅になってしまった。
 
だから今では、ハウスメーカーやマンションデベロッパーの提案する住宅を自分の「憧れの家」だと考える人も多くなっている。
だけど本当にそうだろうか?その提案で建てられる家は、本当に心から憧れる生活を実現してくれるだろうか?
現代的な住宅は見た目が綺麗で機能も充実しているけれど、皆が皆、都会的で洗練された暮らしを好むわけではないはず……。
 
オーディオと一緒にミュージックライフを楽しみたい人、キッチンを囲んでホームパーティーをしたい人、田舎暮らしと家庭菜園にあこがれる人、DIYで家じゅうのインテリアを造り込みたい強者も。求める生活や環境が違えば、住まいの姿だって大きく違ってくる。
 
自分の個性や憧れを思う存分表現した住まいを造れたら、それこそ友人を大勢呼んでパーティーを開いて、「これが私の大好きな家です」なんて見て欲しくなるもの。
思い入れたっぷりの家に招いて、「素敵な家だね」「居心地のいい部屋だね」なんて言われたら最高だ。

インテリアだけじゃ限界

IKEAやニトリ、近頃は100均ショップでも、バラエティに富んだテイストのインテリアグッズが買い揃えられる。カーテンや敷物にこだわるだけでも、まったく部屋の雰囲気が見違えてくるものだ。
 
持ち家でなければこだわりを反映できないのか?といえば、一応はそうとも限らない。多くは築年数の経過した古い貸家だけれど、賃貸で内装フリーという住宅もある。
とはいえ、実際個人で大掛かりなDIYはなかなか大変だ。壁紙一つだって好みの色柄に変えるのは予算も労力も時間も掛かる。
 
期限を限って住むのが前提の賃貸住宅、一般的に考えれば、内装工事に度を超えたお金や手間は掛けられないもの。
賃貸住宅のインテリアは住む人がどれだけこだわりを持っていても、やっぱり限界がある。
 
部屋探しをしてみると、白い壁の無難な内装ばかりが目に入る。無難なら嫌われないけれど、言い換えれば誰にとっても特別なお気に入りじゃないということだ。
「ピタッと好みにハマる部屋があれば、多少古くたって構わない」、それが本音という人は大勢いるんじゃないだろうか。
だけどそんなニーズを拾ってくれるハイクオリティな内装の賃貸が増えるには、どうもまだまだ時間がかかりそう。

和でも洋でも中でも要はこだわり

都心や湾岸沿いの超高層マンション、きっと週末には友人を呼びたくなる。東京湾の夜景を堪能できるのはごく限られた人たちだ。
でも誰もがそれに憧れるかといえば……。
 
マンションの窓から見える湾岸沿いの、古びたロフト風アパートメント。
玄関へ続く鉄骨の階段がライトアップされ、まるでジャズクラブのファサードのよう。
少し開いたシャッターから見えるのはカスタムされたハーレー。もう40年以上は経つだろう外壁のレンガが、得も言われぬ渋さを醸し出す。
色彩までもセピアに見えてくる光景を眺めて佇んでいると、楽しげな会話の声が表通りまで微かに漏れ聞こえてくる。
 
『どんな人たちが住んでいるんだろう?』
ふと浮かぶのは、アメリカドラマの家に憧れたあの頃と同じ疑問、同じ憧れ。
 
広いから憧れたわけでも、日本にないから憧れたわけでもない。160㎡でなくとも、億ションでなくても、憧れの住まいは案外手の届くところにあるのかもしれない。
 
友達を呼びたくなる部屋、「素敵だね」「居心地がいいね」と言われるのは、つまりはこだわりの見える住まいなのだ。
それを実現できるのは、日本のアパートオーナーさんたちなのかも知れない。
 
著:猫野 千秋