秘密基地が欲しい!!

住宅のコマーシャルで、天井の高いリビングを喜びながら「実は俺は低い天井が好きなんだ」と
心でつぶやく夫、その夫の心を知りながらニヤッと笑う妻、というのがありましたね。

 普通に考えて、天井というのは高い方が部屋は明るくなるし、当然ながら開放感があっていいんです。
けど、オトコゴコロは意外とそう単純ではないのですね。なんか狭くてみっしりとものが詰まった空間に
惹かれる心をどこか隅っこに持っていたりするんですよ。

 もしかすると、子供の頃に憧れた宇宙船のコックピットかも知れません。
あるいは、地中深くに掘られた秘密基地の司令室なのかも知れません。
とにかく「装置」とか「画面」とかそういうものが、手の届く範囲にいろいろ並んでいることが重要なのです。



最近たまにネットで見かけるものに「ウォークインクロゼットを夫が占拠してしまう」
という事例があります。
押し入れよりも広く、しかし当然部屋というには狭いあの空間に、パソコンやゲーム機、小さな本棚、
デスク、椅子、たまに一人用のこたつ、みかんなどといったアイテムを持ち込んで、
「ちょっとした籠城戦にも耐えられるもんね、これで」的な極小プライベート空間を
構築してしまうのですね。

 マンション暮らしで自分の部屋も持てず、リビングで寝転べば妻に叱られ、
子供部屋に立ち入ることもできず、ウォークインクロゼットのここが最後のパラダイス……。
なんて書くとそれはかなり悲惨な状況に思われるかも知れませんが、
ネット上に流れるそういう秘密基地に勤務するお父さん達は、
みんな一様に目をきらきらとさせてとても楽しそうなんですよね、これが。



 これが例えばものすごくお金を持っているお父さんだったとしたら、
本物のクルマが何台も入るガレージを作ったりするのでしょう。
所ジョージさんの「世田谷ベース」なんていうのは憧れの頂点に近いんじゃないでしょうか。

そしてさらに「もしも桁外れにお金を持ってたら、庭の池が割れて中からプライベートジェットが飛び出してくるようなんしたいなあ」というような妄想、いや、夢を語る人も居ます。
困ったものです。いや、別に困らないか。



 そういう特別な人ではないごく普通のお父さん達は、ウォークインクロゼットのコージーな空間、
あるいは押し入れのミニマムな半空間に自身の「夢」を結晶させるのです。
そしてその「夢」で満たされた安らぎのテリトリーで英気を養って、
また明日の朝には元気に出動していくのであります。


ワンダバダバダワンダバダバダワンダバダバダワン、
タラッタワンダバダバダワンダバダバダワンダバダバダワン……
(「帰ってきたウルトラマン」で警備隊が出動する時のBGMです、若者の皆さんごめんなさい)

著:おじま あきら