遺言の日

先日ラジオで「1月5日は遺言の日」ということを言っていました。
「遺言」を「いごん」と読んで一と五の語呂合わせのようです。あまりにもひねりがないですね。
一年365日、いろんな日が制定されているのは知ってました。
でも、それにしても「遺言の日」なんていうのがあるのか、と少し驚きました。
そして改めて調べてみますと、これ以外にも「遺言」に関する記念日があるらしいです。
まず4月15日。これは「よい遺言」の語呂合わせ。
そして11月15日。こちらは「いい遺言」の語呂合わせ……。
なんでみんな語呂合わせやねーん!って感じですが。


ちなみに4月15日は日本弁護士連合会が2006年に、11月15日はりそな銀行がこれまた同じ2006年に、
そして1月5日は日本財団が2016年に定めたのだそうです。
 



さて、遺言書。これはほぼ「死後、自分の財産をこうしてほしい」ということを書き遺すものですね。
「紀州のドンファン」と呼ばれた方が二年前に亡くなりましたが、去年その遺産を巡って遺言書が
話題になりましたね。
財産を全て田辺市に寄付する、という内容でした。
全額といっても妻には法律上「遺留分」として1/4をもらえる権利があるそうですが、
金額が大きいだけに大変な騒動だったことでしょう。

このように遺言書というと「ある程度の財産を持っていて、いろいろと思いのある人が書くもの」という
印象がありますが、そうでなくても後々こまごまと親族間で揉めないように書いておく、
という意識が今は昔よりも高くなっているかも知れません。
 

遺言書が無い場合の遺産相続

では、特に遺言書などが無かった場合にはどうなるのでしょうか。
法律上、相続を受けられるのは以下の人たちです。
 
・被相続人の配偶者は、常に相続できます。
・配偶者以外の親族は、第一順位として子、第二順位として父母、第三順位として兄弟姉妹の順番で
相続できます。
・相続人が先に亡くなるなどした場合は、その人の子が相続できます。
 
例外として、例えば故人を虐待していたり、あるいは故人を殺害したなどの場合には相続が受けられません。
また、故人が生前に裁判所へ相続廃除の申出をしていて、審判が下ったうえで「推定相続人廃除届」が
役所に出されていた場合にも相続が受けられません。
 
相続人を確定するためには、亡くなった方の親族関係、子供や孫、両親、兄弟などが何人居て、
それぞれ誰々なのかということを調べて証明しなければなりません。
その証明になるのが戸籍です。
戸籍というのはいまは夫婦と子供で一つの単位になっていますが、昭和三十年代までは家単位でした。
戸主、配偶者、長男、長女、次男、次男の妻、次男の長女、戸主の母、などという三代や四代にわたる
人たちが一つの戸籍に記載されていたのです。

その戸籍からいまの戸籍への切り替え(改製といいます)は昭和三十年代、数年かけて日本全国で
行われました。
この改正前の戸籍を「改製原戸籍」(もしくは「原戸籍」。事務関係の人は「はらこせき」とか「はらこ」と呼んだりします)といいます。
故人が男性の場合には、その人が十代前半の頃からの戸籍を遡って調べなければなりません。
なぜかというと、生々しい話で恐縮なのですが、そのくらいの年齢になるとどこかに子供が居て、
故人が認知しているかも知れないからです。

そう、つまり昭和二十年頃より前に生まれた人の戸籍を遡る場合には、いまの戸籍謄本だけではなく
改製原戸籍謄本も取らなければならないのです。
そしてさらに転籍などしていた場合には、その転籍前の本籍地の役所から除籍謄本も取らなければ
なりません。

昔の戸籍係は役所の中で達筆な人が配属された、なんて言われることがあります。
達筆なので、読みにくいです。
この戸籍を遡る作業はなかなか普通の人にはハードルが高いですね……。

遺言書の効果は大きい

遺言書がある場合には、先に書いた「遺留分」を除いて、その遺言通りに分配されます。
仮に推定相続人廃除届が出されていても、遺言書が優先されます。
つまり「この人にもあげます」と書いてあればもらえる、ということですね。

遺言書の効果はとても大きいですね。
だから犬神家の人たちもあれほど必死になったわけですね。
ただ、この遺言書。
実際に有効かどうか、といったことでよく揉めますよね。
これは本当に故人が書いたものなのか、改ざんはされていないか、
もしかしてこれを書いた時点で認知症で何も判断できないような状態では無かったのか、
また民法で定められた遺言書の要件を満たしているのか、
そしてこれよりも新しい遺言書は無いのか(複数ある場合は一番新しいものが有効なんだそうです)、
といった様々なことです。

細かい一例としては、土地や家屋の相続で、遺言書に記載された住所と登記簿の住所が違うために
相続登記が出来ない、というようなケースがあります。
登記簿の住所は変われば変更が必要ですが、特に罰則が無いのでそのまま、
という人も多いでしょう。
その場合に住民票や戸籍の付票(住所の移り変わりが記載される公文書)で
住所のつながり(沿革、なんていいますね)がわからないと、
遺言書だけでは相続登記が出来ないことがあるのです。
 

遺言書の作成には

遺言書の要件に関しては、様々な細かい決まりがあるのでここでは触れませんが、自筆で作成するほかに、
公証人が書いて公証役場で保管してもらうというものもあります。
法律上のことですし、改正などがある場合もありますので、詳しい内容は弁護士さんなど専門家に
確認するのがいいでしょう。
 
平均寿命が延び、認知症になるリスクが高く、また親族関係も複雑になりがちなこの頃。
自分の家族、子や孫がトラブルに巻き込まれないために、そして自分自身を大切にしてくれた者への
感謝を表すためにも、元気な間に遺言書を作成しておくことは大切なのではないでしょうか。

著:おじま あきら