花火の見えるベランダ

住まい、特にマンションを選ぶときに「窓からなにが見えるのか?」というのは
結構大きなポイントだと思います。

 海が好きな人だったら港や海岸が見えれば嬉しいだろうし、山が好きな人だったら
連なる山々がリビングから見えれば幸せに違いありません。

 地域にもよりますね。例えば大阪だったら「天神祭の船渡御が見える」なんていうのは
非常にポイントが高いでしょう。
なんせあの花火の前後には、天満界隈に130万人の人が集まると言われてるわけですから
「エアコンの効いた自宅からそれを人混みにもみくちゃにされないで見られる優越感」は
きっとすごいと思います。

 そう、ものすごい人混みをプライベートな空間から眺めるというのは、
これは非常に気持ちがいいんですね。



 筆者の自宅兼仕事場は、海に近いエリアの15階にあります。
わりと高層だけど、ぜんぜん高級ではありません。
古い公団住宅です。
でも、大阪に向かって眺望がひらけていて、梅田の夜景や淀川花火を遠くに眺めることができます。

 先日、花火のイベントがありました。
音楽に合わせて打ち上げ花火がばんばか打ち上がる豪華なイベントで、
交通不便な埋立地の仮設会場に二万五千人の観客が集まるという、
行きも帰りも現地のトイレもそれぞれのシーンで
各々きっちり地獄っぽい展開が予想されるイベントです。

 そのイベントを知ったのは、花火が始まる二時間前でした。
Facebookで友達の会場からの書き込みを見て、そういうのがあるというのがわかったのですね。
それでふと思い立って地図で調べてみたらその会場、
うちのベランダから海を隔てて直線で4キロメートルくらいなんですね。
これ、いい感じに見えるんちゃうん、いや絶対見えるって、
なんて一人でテンション上がってしまいました。
果たして……。めっちゃ見えました!素晴らしく!

 開始15分前にゆっくりとベランダに三脚を立てて、ゆったりと椅子に座って花火を楽しみながら
リモートでシャッターをぱちぱちやって、終わったらさっさと片付けて。
ああ、いまごろあの対岸ではいつ果てるともないバス待ちの行列が続いておるのだろうなあ、
なんて想像しながらラジオのスイッチを入れてゆったりと原稿を書き始める……。
 なんていうかその、非常にリッチな気分になりました。
そのときもしかしたら「天空の城ラピュタ」の例の人の「人がまるでゴミのようだ!」に近いものも
少し混じっていて、とても悪い顔になっていたかも知れません。


 台風の停電でエレベーターが止まった時には8階くらいで遭難死しそうになって「高層階、あかんわ」
なんて己の住宅選びを反省したりもしましたが・・・

そんなことを完全に忘れさせてくれましたよ、この夜は。

著:おじま あきら