『住宅は買うほうが得か?借りるほうが得か?』

こんな比較論が必ず年に数回、大手の住宅系サイトなんかで掲載されていますね。生涯に発生する支払いコストの比較シミュレーションと、その時々の金利が支払いにどう影響するか?そして将来の資産価値などを含め、どちらが得でどちらが損をするのか?そういった経済的な視点から結論が締めくくられている内容がほとんどです。 そしてそれらの比較論を執筆するのは、不思議なことに不動産関係者や建築関係者ではなく、きまって経済コラムニストか、金融系のシンクタンクだったりします。

“二択”現象

いわずもがな、住宅は“所有”か“賃貸”の二つしか選択肢がありません。誰もがあらたに世帯をかまえようとする場合、必ずそのいずれかを選択しなくてはならないのです。 にもかかわらず、両者の選択は“コストの比較、コストの損得”という経済的な視点のみでしか語られない。  残念ですがそれが日本の住宅市場の不思議です。 またともすれば本当にこの考え方だけで所有か賃貸か決定してしまう人たちも存在しているのではないでしょうか。 
住宅市場の不思議はその他にも。 所有派の人たちはきまってマンションの販売センターを訪ね、賃貸派の人たちはきまって駅前の仲介業を訪ねるといった“二択”現象です。それは同じ“不動産”という看板でも、全く違う方向を向いた“ドアー”をくぐることになりますが、その大切な判断をするための相談窓口は存在していません。  消費者の住まい方が多様化しているにもかかわらず、市場は依然“売る”と“貸す”のビジネスのみが主流を占めるという理由からでしょう。

分譲と賃貸、両者の特徴

さて、実際に分譲と賃貸、両者の特徴をかいつまんでみます。 日本の分譲住宅、この場合分譲マンションや分譲戸建て住宅を指しますが、それらはすでに快適さや便利さという面では世界でも群を抜いて確立されているといえます。 我が国の地震に耐えぬく耐震性や制震性はもちろん、過酷な四季の変化に対応する耐久性に加え、断熱性や耐火性も飛躍的な向上を見せています。その他にも託児所やシアタールームなどの付帯設備や、ボタン一つで遠隔操作できる空調、給湯システムなど設備も含めたハード面の質は目を見張ります。他方セキュリティ、管理サービスといった運営のソフト面はハード以上に洗練されていて、一度この利便性を味わうともう日本以外には住めないかもしれません。 この分譲住宅をサプライするのは比較的大手の不動産会社が主ですが、分譲事業は同業者との競合が激しく、彼らの“売り物”である住宅の活発な商品開発が、快適性の向上に結び付いていると考えられます。

一方、賃貸住宅にはそういったハードの快適性やソフトの充実は大きく期待できないとの見方が一般的です。これらは主に個人の事業主が多く、建築コストのスケールメリットが出やすい大規模物件も少ないこと、地域密着型の建設事情があるため、最新の設備投入が難しいといった事情が考えられます。 しかし反面、個人事業主だからオーナーの主観によりデザインされている建物が多く、外観や間取りの画一化が図られていないために、賃貸市場には個性的な物件が多いという理由につながっています。 そして住宅の販売完了時に利益を確定しなくてはならない分譲デベロッパーに比べ、採算性の追求が第一でなく、むしろ良い入居者を選びたいというオーナーも多く、そういった物件では近隣の相場より安価で快適な物件に巡り合えたりすることも珍しくありません。 フランス好きが高じて建てたお城のようなマンションや、サーファーのためにさまざまな工夫をしている茅ヶ崎のマンションなど、そこにしか存在しないこだわり住宅を探すのであれば、賃貸マンションが向いているともいえるでしょう。 それから賃貸マンションの場合、分譲マンションのようなしっかりとした管理規約を見かけるケースは少なく、むしろオーナー自身が同じマンションへ入居していて、小規模で円滑なコミュニティが保たれるといった、日本人には馴染みやすいシステムが多く存在しているいうことも、あまり知られていない賃貸住宅の魅力のひとつです。

これからの考え方

先の経済アナリストのくコラムにもあるように、わたしたちは住まうためにかかるコストを長らく払い続けることになります。支払いの比較はもちろん重要ですが、同時に長らく住まうからこそ、そこが家族、人生にとって最も有意義な場所でなくてはなりませんよね。 近年これだけ経済市況の見通しを立てにくい時代だからこそ、“衣食住”のなかで最も人生への影響が大きい、住まいへの“こだわり”を、あきらめないで持ち続けていくことが大切です。 自分たちのライフスタイルはどうありたいのか?住まいへの価値観をどこに置くのか?  そのためにまずは借りる?いや買う? そこから始める“家さがし”の時代であることはもう間違いありません。