本の重さ

 うちはまったく裕福ではありませんが結構モノが多く、特に本がやたらにたくさんあります。
六畳間の壁一面、床から天井まですべて本棚で、そこにほぼぎっしりと本が詰まっています。

 本がいっぱいといっても至って軽い内容のものばかりで、雑誌や漫画なんかもたくさんあるので
決して「かしこの本棚」ではありません。
しかし本の内容は軽くても、本自体の物理的な「重さ」はかしこの本と何ら変わらないので
引っ越しとなるとなかなか大変です。

 六年前に引っ越しをしたのですが、下見に来た引っ越し屋さんは、本棚を見て
「ああ、これだけで2トンはありますね……」と言いました。
それは本当に重さが2トンなのか、それとも積むのに2トン車が要るということだったのか、
その辺りどうなのかはわかりませんが、「本というものは予想外に重たいのだ」
ということをその時改めて思い知りました。


 
 I橋さんという友達が居ます。
彼は高校の国語の先生なのですが、小さな劇団を主宰していて、その台本を書く作家でもあります。
その関係もあって大変な読書家で、毎年300冊くらい読んでいるといいます。
そして、彼は本を捨てない人です。

 三年ほど前、その彼が引っ越しをしました。
引っ越し先はものすごく築年数の古い木造の戸建て住宅で、原状ほぼ倉庫のような状態で
とてもそのまま住めるような物件ではありませんでした。
しかし彼は劇団で大道具などもこなしていたので、その技術を活かしてその物件の
セルフ・リフォームを始めました。

 もともと二つあった階段を一つ撤去して二階の床を塞いだり、天井板を剥がして新たに収納スペースを
作ったり、日曜大工のレベルの作業ではありません。
トイレや浴室の水回りも一からやり直しました。
そして圧巻は、一階の壁一面、高さ2メートル50ほど、差し渡し5メートル以上もある作り付けの本棚です。その本棚にぎっしり詰まった本の数は、おそらく五千や六千ではありません。
重さもきっとトンの単位でしょう。


 
 居室の床の耐荷重は、通常一平方メートル当たり180kgなんだそうです。
正直、意外と小さな数字だなあと感じます。
たとえば幅が45センチ、奥行きが30センチのごくありふれた三段カラーボックス。
これの底の面積は1350平方センチですよね。
一平方メートルは10000平方センチですから、1350/10000に180kgを掛けると24.3kg。
つまりあのカラーボックスに25kgも物を入れると、その部分に関しては計算上は床が危ない、
ということです。
10kgの米袋を3つ入れたらアウトです。って、米をあれにしまう人も居ないでしょうけど。

 棚というのは意外と収納力が大きくて、一段当たり段ボールひと箱ほどの本が入ります。
段ボール三箱に本をきっちり入れたら、25kgなんて軽く、いや重いんですが、超えてしまいますよね。
 しかも、三段カラーボックスの高さはせいぜい1メートルくらい。
本棚の高さは普通その倍はありますから、つまり「普通の本棚に本をいっぱい入れると、床が抜けても
不思議ではない」ということです。
 


 I橋さんのおうちは、幸いにも本棚を一階に作りました。
床ではなく、ほぼ地面が本棚を支えてる感じなので「床が抜ける」ということはたぶんないだろう、
ということです。



 近頃は本棚のない家庭も多いと聞きますが、一方で床が抜けるほどの読書家というのも大変なものですね(と、他人事でまとめてみる)。

著:おじま あきら